『 ・・・ だから さ ― (1) ― 』
****** はじめに ******
このお話は【 Eve Green
】 様宅の
<島村さんち>設定を拝借しております。
海に臨んだ崖っぷち ― 登ってみればその天辺にはかなりの広さの平地が開けている。
海風が吹きつけるのは当然だけれど緑豊かな場所で岩陰には冬でもぽかぽかの
陽射しが集まるのだ。
そして。 その崖っぷちの土地には一軒のちょっと古びた趣の洋館が建っている。
町中から離れた辺鄙な場所なので < いつのまにやら > < いつのことだか >
よく判らないうちに その邸はだんだんと近隣の土地に馴染んでいった。
今は結構地元の人々との交流がある。
まず ・・・ 当主である白髪白髭のご老人はタバコ屋のご隠居の碁敵だったりもするが
実は高名な学者さんで 時折医療技術の方面に貴重な技術提供をしている。
若旦那さん、というか若ご主人は気さくな青年で 休日には自治会の会合などにも
顔をだすし、海岸のパトロールなんかも二つ返事で引き受ける。
彼の奥方は金髪碧眼のフランス美人なのだが、日本語の上手な可愛い女性で、
地元商店街に がらがら買い物カートを引っ張って晩御飯の材料を買いにやってくる。
一月の声を聞くと 崖に近い窪地では水仙の花が一斉に咲き始める。
「 ・・・ きれいねえ ・・・ あの花をみると ああ・・・春! って思うのよ。 」
毎年、 この時期にフランソワーズは飽きもせず同じことを言い、 買い物の帰りなどには
わざわざ回り道をして 白い群生を眺めて楽しんでいる。
「 ほう ・・・ フランソワーズには水仙が春を告げる花なのか。 」
リビングで書物を広げていた博士が 彼女の呟きを拾い上げた。
「 はい。 わたし、ここに住むまで水仙はラッパ水仙しか知りませんでした。
アレはもっと春もたけなわのころに咲きますよね。 」
「 おお おお そうじゃった ・・・ チューリップと一緒に咲いていた気がするが ・・・の? 」
「 まあ 〜〜 博士〜〜 随分とお詳しいのですねえ ちょっとびっくり・・・ 」
「 ははは・・・ワシだとて若い時分はあったのじゃぞ。
しかしあの白い清楚な花はいいのう ・・・ ワシもこの地で知ってファンになったよ。 」
「 ですよねえ 今年こそ、ウチの庭にも球根を植えてみたいなあ〜って思ってます。
あ そうそう ・・・ あの花 とってもいい香りを持っていますのよ、お気付きでしたか? 」
「 え・・・ 香り、 とな。 ・・・・ う〜〜〜ん ・・・・・さて・・・さすがにそれは知らんなあ。 」
「 うふふ・・・ 今度 ご一緒しましょう。 お花屋さんの店頭ではあまり香りませんの。
下の崖の窪地に群生しています。 」」
「 ほう ・・・ それは是非御案内願いたいのう・・・
そうじゃな、来年はウチの庭にもすこし植えてみようかね。 」
「 ね♪ ほら 門からずうっと 玄関までの道の脇に植えたらどうかしら。
素適な春の使者になりますわ。 」
「 うむうむ ・・・ しかしまあ ここいらはほんに温暖な気候と風土に恵まれておるのう・・・ 」
「 本当に ・・・ ここに住んで よかったですわね、博士。 」
「 そうじゃなあ ・・・ お前たちも ― 温暖な年月を送れるといいな ・・・ 」
「 え? あ あら ・・・ 」
ぽ・・・っと染まった頬に手をあて、彼女はどぎまぎ・・・そっぽを向いてしまった。
最近 フランソワーズ はやっと ( 本当に やっと! ) 想い人・ジョーとの婚約が整った。
いまは5月に挙式を控え俗に言う 一番幸せな日々 なのだ。
「 ふふふ ・・・ 幸せに ・・・ な ・・・? 」
「 はい ― 博士 ・・・ 」
そして 月日が流れ ― 初々しい花嫁は 元気な双子の逞しい・お母さん になった!
現在地元で < ゆうめい > で < にんき > なのは なんといっても!
島村さんちの 双子の姉弟 なのである。
「 お母さ〜〜〜ん おつかい、 おつかい いく〜〜 」
「 そう? うれしいな。 それじゃ・・・ お買い物をお願いしてもいい? 」
「「 うん ♪♪ 」」
黄色い帽子の小学一年坊主になった二人は 最近ぐん・・・っと行動範囲が広がった。
幼稚園時代はお母さんの自転車で 送り迎えしてもらっていたけれど、
最近近所の商店街までは子供たちだけでも < お買い物 > のお使いができるようになった。
「 おかいもの いける! ね〜 すばる? 」
「 ウン。 ね〜〜すぴか。 」
こっくり頷く色違いのアタマにフランソワーズはにこにこ・・・でも真面目にお願いをする。
「 じゃ お願いします。 八百屋さん に行って、すぴかは じゃがいも、 すばるは
たまねぎ を買ってきてちょうだい。 八百屋さんのおじさんとおばさん、知っているでしょ? 」
「「 うん! 」」
双子たちは地元・海岸通り商店街の <常連さん>なのだ。
「 それでね、 二人ともリュックに入れて・・・ もって帰ってきてくれる? 重いわよ〜
出来るかな〜〜〜 ? 」
「「 できる!!! 」」
「 は〜い それじゃ・・・ リュックしょって。 お金は すぴか、ほらここのぽっけにいれますよ?」
「 は〜い 」
すぴかとすばるは胸当てつきのコーデュロイのズボンを穿いていて、
その胸にある大きなポケットに 母はお札を一枚、入れた。
「 はい 入れました。 ボタン、かけておいてね。 」
「 ・・・ うん ・・・ えっと・・・ ぽん。 はい、できました! 」
「 僕も〜〜〜 」
「 あ ・・・ それじゃね このクーポン券。 これ ・・・ すばるのポッケにいれますよ〜
すぴかと一緒に八百屋さんに渡してね。 できるかな〜〜 」
「 できる 〜〜 」
すぴかもすばるも 大真面目に胸のぽっけを押さえて こくこく・・・頷いた。
「 は〜い それじゃ ・・・ リュックしょって〜 行ってらっしゃい。 」
「「 いってきま〜〜す!! 」 」
色違いのリュック ( これも母のお手製 ) を背負い、しっかり手を繋いで双子たちは
邸の前の坂道を下っていった。
たったったっ ・・・! た た た た ・・・・
二つの小さな靴音はしっかり坂道を降りて、道沿いに歩き商店街に入った。
「 やおやさん、は〜〜〜っとぉ〜〜・・・ やおやさんは ど〜こっかなっ 」
「 うん、やおやさん。 はじっこからあ7けんめ だよ。 」
「 ふ〜ん ・・・ あ み〜〜っけ! 」
だ・・・!っとすぴかはすばるの手をぎっちり握ったまま駆け出した。
「 うわア〜〜 !! 」
「 すばるもはしるぅ〜〜〜 」
「 うわぁ 〜〜〜〜 ・・・ 」
すばるは終始すぴかに引き摺られ つんのめりつつ走っていた。
「「 こ〜んにちは〜〜〜 くださいな〜〜〜 」」
「 へい いらっしゃい! お〜〜〜 双子たちか〜! お使いかい? えらいなあ〜〜 」
お馴染みの八百屋のオジサンは 二人の姿をみると普段から愛想のいい顔をもっともっと
にこ〜〜〜っとして ・・・ 店先まで駆け出してきてくれた。
「 さ ・・・ こっち、入りな。 風が来ないぞ。 それで 今日は何を買ってくれるのかい。 」
「 あのね! じゃ が い も! 」
「 あのね〜〜 たまねぎ。 」
「 そうか そうか ・・・ ありがとうね〜〜 オジサンが店中でいっちばん美味しいの、
選んであげるからね〜〜 ちょっと待ってな。 」
「「 はい 」」
二人は手を繋いだまま 神妙な顔で立っている。
「 ・・・ あ。 おかね。 え〜と ・・・・ 」
すぴかは ごそごそ・・・胸のぽけっとをさぐる。
「 僕も〜〜 〜〜けん! 」
すばるも 姉のマネをしてぽけっとに指を突っ込み 10円引き! と書いた券を引っ張り出した。
はいよ、とオジサンは じゃがいもをすぴかのブルーのリュックに、 そしてたまねぎはすばるの
グリーンのリュックに入れてくれた。
「 オジサン、ありがとうござました。 はい、 おかねです。 」
「 ありがと〜ました。 はい、 むにゅむにゅ・・・けん です。 」
小さな手がお札と割引券を差し出してくる。
「 お〜〜〜 ありがとうな。 じゃ・・・ ほら すぴかちゃん、 おつりだ。
すばるくん、 これはね〜 レシート。 お母さんに渡すんだぞ。 」
「「 は〜〜い 」」
「 それとな〜 コレはオジサンからのお駄賃。 ほい。 」
二人のちっちゃな手の上に 甘くて美味しそうなみかんがちょこんとのっかっている。
「 ・・・わ? あ〜〜〜 おみかん〜〜〜だア〜〜 」
「 おみかん おみかん〜〜♪ 」
「 おうちでたべるね、おじさん。どうもありがとう〜〜 」
「 とう〜〜〜 」
ぺこん、とおじぎすると すぴかはすばるの手をひっぱって八百屋の店先を出て行った。
八百屋のオジサンは二人が大きな道路を無事に渡り終えるまでしっかり見守っていてくれた。
「 ばいば〜〜い オジサン またねえ〜〜 」
「 ねえ〜〜 」
「 おう、 ばいば〜い! またおいで ・・・ いやあ いいなあ ・・・ あのチビたち ・・・ 」
「 なんだヨ、 八百正さん、独り占めはズルいぜ〜〜 」
後ろから 隣の肉屋のオヤジが声をかけた。
「 お? ナニワ屋さんかい。 あはは ・・・ 悪ぃ 悪ぃ・・・ 」
「 しかし いいねえ〜〜 あのコ達がくると商店街中楽しくなるよなあ。 」
「 そうそう ・・・ 二人の美人のおっかさんにも来てほしい〜〜 」
「 へへへ・・・・アンタのホンネはそっちだろ〜〜 」
「 ダハハハ ・・・まあそういう点も無きにしも非ず・・・ だがよ! あのチビコンビは別だぜ。
アイツらがいるとなんかこう ・・・ 」
「 ああ。 自然に笑っちまう。 ここいらの天使だよなあ ・・・ 」
「 ま、もうすぐ評判のクソガキになるだろうけどよ。 」
「 そりゃ〜皆 通ってきた道、ってヤツさ。 おっと〜 いらっしゃい! え みかん? はいよ! 」
ここいら辺りはもともと海岸沿いの過疎地で いわゆる郊外型の大型スーパーはない。
昔ながらの商店街は 地元の人々の <生活必需品> なのだ。
「 ふ〜んふんふん♪ よいしょ よいしょ〜〜 」
ブルーのリュックは元気に歩いてゆく。 が。
「 ・・・ すぴかア〜〜 僕ぅ〜〜〜 ちょっとおやすみしたい〜〜〜 」
遅れ気味だったグリーンのリュックはついに停止してしまった。
「 なに〜〜? 」
「 だから〜〜 おやすみ〜〜 」
「 なんで。 」
「 だってさ〜 たまねぎさん ・・・おもい ・・・ 」
「 じゃがいもさんもおもいよっ! みちくさ、だめっておかあさん、いうよ?
ようちえんの よ〜こせんせいもいったじゃん! いちねんのたんにんのたけうちせんせいも
いつもいうじゃん! 」
「 ちょっとだけ〜〜 僕、おもくてあるけない〜〜 」
「 ・・・ すばるのよわむし! 」
「 よわむしでもいいも〜ん ・・・ あ! いいにおい・・・ けーきやさんだあ〜〜〜 」
すばるはふらふら・・・最近できたらしい洒落た店舗ににじり寄ってゆく。
その店は道に面して大きなショーウィンドウがあり、華やかに・楽しく・甘いモノが陳列してあった。
「 げ〜〜〜 けーき、すきくないも〜〜ん 」
すぴかはなぜか赤ちゃんの頃から甘いものがあんまり好きではない。
「 でもでも〜〜 きれいだよ〜〜 ねえ みてみて〜〜 」
「 ・・・ え〜〜〜 ・・・?? あ。 ほんとだ・・・ すご〜〜い・・・ 」
ふらふら寄ってきたブルーのリュックもたちまちショーウィンドウに張り付いてしまった。
季節のフルーツやらマジパン細工を使ったり 色とりどりのケーキやらクッキーが並ぶ。
「 うわあ〜〜・・・ すごい〜 〜〜 」
「 ね ね! 僕ぅ 〜〜 あれ! あれがいい! いちごがい〜〜っぱいの! 」
「 アタシはこっちの白いのがいいなあ・・・ ― あ これ ・・・ お た ん じょ う び・・・
そっか はっぴ〜ば〜すで〜♪ のケーキだあ〜 」
「 どれどれ? うわあ〜〜 おしそう〜〜〜 はっぴ〜ば〜すで〜 のケーキ♪
くり〜むがいっぱいだあ〜〜 」
「 ・・・・ あ ・・・・ れ。 なんだっけ? ナンか ― わすれてるよ・・・アタシ達 ・・・?」
すぴかはおでこに皺をよせ その皺ごとガラスにごっちんしつつ ・・・ 唸っている。
なんだっけ なんだっけ ・・・え〜〜と え〜と ・・・ ココまでおもいだしたのに〜〜
すぴかは とんとん・・・と自分のアタマを叩いてみて ・・・
あ〜〜〜!!! おもいだした!!
「 すばる! おかあさんのおたんじょうび ! 」
・・・ 1月24日は もう来週に迫っていた。
「 おかえりなさい。 ご苦労様〜〜どうもありがと・・・ 」
坂の上の我が家では お母さんはいつもと同じににこにこ〜〜〜 で待っていた。
「 おか〜さん! はい じゃがいも〜〜〜 」
すぴかはお母さんに背中を向けた。
「 はい ・・・ まあ 重いわねえ・・・ すぴか、重たかったでしょう? 」
「 ううん! ぜ〜んぜんへっちゃら! 」
お母さんはにこにこしながらすぴかのリュックの中身を出してくれた。
「 そう? ・・・・ あら おみかん。 おみかんは頼んでいないわよ? 」
「 おみかんね、 やおやのおじさんが おだちん って。 」
「 まあ〜〜〜 」
「 あ! はい おかね。 」
すぴかはちゃ〜んと胸のぽっけから硬貨をいくつかつまみ出してお母さんに渡した。
「 はい ありがとう〜〜 さすがお姉さんねえ、すぴか・・・偉いなあ〜 」
「 え へへへへ ・・・・ 」
「 おか〜さん! 僕も! はい〜〜 」
グリーンのリュックがず〜〜〜っとバックしてきた。
「 おっと・・・ はい。そこでストップ〜〜 まあまあ タマネギも重いわね・・・
ありがとう〜〜 すばる♪ 」
「 えへ・・・ あ! これね〜〜 やおやのおじさん が。 」
すばるもぽっけから 紙っきれを手繰りだした。
「 ? ・・・ ああ レシートね。 はい ありがとう〜〜 まあ すばるのリュックにもおみかん? 」
「 うん♪ やおやさんがね〜〜 」
「 そうなの・・・ まあ今度よ〜くお礼を言っておかなくちゃね・・・ 」
「 おかあさん ・・・ もらったらだめなの? 」
「 あ ううん、そんなことないのよ。 ちゃんと ありがとう〜 したでしょ? 」
「「 うん♪ 」」
色違いのアタマがこくこく頷く。
「 それならいいのよ。 じゃ このおみかんはオヤツにいただきましょうね。 」
「 うわい〜〜〜♪ ・・・ ねえ おかあさん。 」
「 なあに。 」
「 うん ・・・ あの ね・・・ おかあさんのすきなものってなに〜 」
「 好きなもの? ・・・うふふふ・・・ そりゃ あなた達とお父さん♪ 」
「 うわ〜〜 えへへへ ・・・ あ! でもね それじゃ アタシたちのけて ・・・ 」
「 ??? そうねえ・・・ お花は好きよ。 」
「 そっか〜〜 おはな〜〜 ちゅ〜りっぷ や たんぽぽ? 」
「 ええ、お花はなんでも好き。 ほらまだ寒いのに 崖のところに水仙がいっぱい咲いて
いたでしょう? ああいうお花、大好きなの お母さん。 」
「 ふ〜〜ん ・・・ あのしろいおはな? 」
「 そうよ。 あと 梅。 今年は遅いわね、あのいい匂いのお花よ。 」
「 あ! おにわにあるきのおはな? 」
「 そうよ〜〜まあ すぴか、よく知っているわねえ。 」
「 ね〜 ね〜 おかあさん〜〜 おかあさんがすきなのなに〜〜 」
「 すばる〜〜 いま アタシがしつもんした! 」
「 う ・・・ だ だから〜〜 あの〜〜 たべるので! 」
「 ? ああ 食べ物で? そうねえ・・・ お母さん、お家で皆で食べるものならなんでも好きだけど
・・・ 果物とかナッツとか好きよ。 」
「 ・・・ おみかんとぴ〜
「 ええ ええ おみかん も ピーナッツも好きよ。 さあ〜〜 晩御飯の用意するから・・・
二人が買ってきてくれたジャガイモとタマネギを美味しくお料理しなくっちゃ♪ 」
「「 うん。 こんばん ごはん なあに。 」」
「 そ〜うねえ・・・? うふふ・・・美味しいジャガイモとタマネギがあるんだもの。
な〜にがいいかなあ〜〜?? う〜ん ・・・ あ カレー。 どう? 」
「「 わ〜〜〜〜〜〜♪ だいすきぃ〜〜〜〜 」」
「 じゃあねえ お手伝い、してちょうだい。 」
「「 はあ〜〜い♪ 」」
子供たちは大にこにこ ・・・で キッチンへお母さんにくっついて行った。
・・・ おかあさんのおたんじょうび の件はすっかりどこかへ飛んでいってしまっていた。
― カタン ・・・ ! 軽いセラミックのドアを開け、床まで下がっているビニールのカーテンを
分けて入ると ― もわ〜〜ん ・・・と 生暖かい空気が双子を包んだ。
「 うわ・・・ なつ みたい〜〜 」
「 いまはふゆ だよ、すぴか。 」
「 だ〜からあ〜 ここがあったかい〜っていったの! 」
「 ・・・なつ〜 っていっただけじゃん。 」
「 ちがいますぅ〜〜〜 なつ ・ みたい っていいました。 」
「 ・・・ ふぇ ふぇ〜〜・・・ 」
「 ふん! なきむし〜〜 なきむしすばるぅ〜〜〜 」
あっかんべ〜〜 をして。 すぴかはカゴをしっかり抱えた。
「 アタシ。 これからおしごとだも〜ん おかあさんのおてつだいだも〜ん 」
ぐしゅぐしゅやってる弟を放り出し、すぴかはどんどん奥に入ってゆく。
ギルモア邸の広い裏庭には ハーブ用の畑とジェロニモ伯父さんの温室がある。
温室を設計して作った担当者は 海の向こう在住、なので日頃の世話と収穫は
島村さんち が主に携わっていた。
「 え〜 と ォ ・・・ さらだようの ぷちとまと♪
アタシのすきなぷちとまとは ・・・っと ?? あ〜 きいろのもなってる〜〜 」
奥の畝に目的ブツを発見し、 すぴか嬢は畔を駆け出した。
二人は晩御飯のサラダ用の野菜を摘みに、かごを持ってやってきたのだ。
「 ・・・ すぴかァ 〜〜 」
すぴかの足元のカゴに 真っ赤になったぷち・とまとたちが転がり始めたころ
すばるがや〜〜っと 同じ畝にあられた。
「 すばる〜〜〜 なにやってんの! ぷち・とまと! 」
「 えへ ・・・ ね〜 みてみて。 ほらぁ〜〜 」
すばるは に・・・っと笑って手を出した。
「 え〜 なに〜 あ、 いちご♪ 」
「 うん。 あかくなってるの、あったよ〜 」
「 うわお〜〜 でざ〜とにしよ! 」
「 うん! ア。 ねえ おかあさんさ、いちご、すきだよねえ? 」
「 うん。 ― あ。 おたんじょうび ・・・ 」
「 おたんじょうびのぷれぜんと さ。 いちご にしようよ〜 」
「 いいけど〜 ここのは だめだよ。 」
「 なんで。 」
「 だって ・・・ う〜ん なんかだめなきがするもん。 」
「 じゃ かう? 」
「 ― おかね、もってる? すばる。 」
「 ん〜〜〜 あ! おとしだま〜〜 コズミのおじいちゃまからの! 」
「 アレは おかあさんにあずけたでしょ。 わすれたの? 」
「 あ ・・・ う〜ん ・・・? 」
「 ・・・ おとうさんにきいてみる? おとうさんのぷれぜんとはなあにって。 」
「 ウン♪ 」
「 あ〜〜 ぷちとまと! 僕もとる〜〜 ぷちぷち〜♪ 」
「 じゃあ あんたはあっちのはしっこからとって。 」
「 わ〜かったァ〜〜 」
双子たちは手の届く範囲のプチトマトを ちっちゃな指で摘み取り始めた。
そ〜だよ〜〜 おとうさんにきいてみよ♪
おとうさ〜〜ん♪ は〜やくかえってこないっかな〜
温室には ぶんぶんぶん〜〜 と すばるのハナウタが響いていた。
カレーはものすご〜〜く美味しかった。 サラダもぷち・とまとごろごろ〜〜でとっても美味しい。
おまけにデザート付き♪ すばるが摘んだちび苺を 皆で3コづつ食べた。
おじいちゃまも < かいぎ > から帰ってきて、外国のお話をいっぱいしてくれて
晩御飯は賑やかで楽しかった。
双子は 目の上くらい詰まるまでい〜〜っぱい ・・・ 食べた。
「「 ごちそ〜さまでしたッ 」」
「 お〜〜 二人とも沢山食べたなあ〜〜 」
「 ふふふ・・・ よかったわ。 」
「 時に ・・・ この満腹たちの父さんは 今夜も遅いのかね? 」
「 ええ ・・・ 今 忙しい真っ最中らしいです。 」
「 そうか ・・・ それは大変じゃのう ・・・ 」
「 本人は楽しそうですよ。 よほど編集の仕事が合っていたみたい・・・ 」
おとうさん おそいんだ ・・・ 双子はだまってお母さんたちの話を聞いていた。
― ぱふん ・・・ すぴかはベッドにダイブした。
「 あ〜〜〜 おひさまのにおい〜〜〜♪ 」
ごそごそ ・・・ ごそ。 上手にお蒲団の中にもぐりこむ。
「 うふふ〜〜 ・・・・ あれ、 すばる ・・・ 」
「 ・・・ おとうさん、まだかなあ〜 」
すばるはまだベッドにも入らないで 子供部屋の窓に張り付いている。
「 え〜 ・・・ さ ぁ 〜〜〜 ? 」
「 おとうさん おとうさん おとうさ〜ん ・・・ まだかな まだかな〜〜 」
「 おとうさん、いっつもおそいじゃん? さっきおかあさんもいってたし・・・
あしたのあさ、あえば? 」
「 僕 ・・・ おとうさんにさ〜 ききたいんだ。 おかあさんのおたんじょうび どうする?って。 」
「 あ・・・ そだね〜 ! 」
すぴかは ばさ!っとお蒲団を跳ね除けてベッドから飛び降りた。
「 アタシもいっしょにまつ! 」
「 ウン! 」
− ぴと。 二人は雛鳥みたいにぴったりくっついて窓から外をながめていた。
かっくん ・・・ くう 〜〜 ・・・・ 何時の間に眠ってしまったのだろう。
「 ・・・ あ ・・・れれ・・・? アタシ ・・・? 」
すぴかはしばらく自分がどこにいるのかよくわからなかった。
だって ・・・ 目が覚めたら 床の上にすばると団子になっていたのだもの。
「 う〜〜ん ・・・ すばる〜〜 あし、どけて〜〜 も〜〜! 」
うんしょ・・・!っと弟の足をどかしてたら ― ブルルル ・・・ 知ってる音がした。
「 あ! おとうさん? 」
きっとおとうさんの車の音だ! と思って窓にオデコをくっつけてみれば ―
・・・ ご門が開いて閉る音が聞こえた。
「 おとうさんだ〜〜 すばる!おきなってば! 」
「 ・・・ う むにゅう 〜〜・・・・ 」
「 ほらあ〜 おとうさんだよ〜〜 」
「 ・・・ お とう さ ん ・・・? あ! おとうさん! 」
「 いこ! 」
二人は たたたた・・・っと子供部屋から駆け出していった。
「 ほらちゃんとベッドに入った? 電気、消しますよ! 」
お母さんの呆れた声が子供部屋に響く。
「「 はあ〜い 」」
「 まったく・・・ パジャマのまんまで玄関まで出てくるなんて・・・ 風邪、ひくでしょう?
それにね、お父さんのお帰りは遅いんだから ・・・ 起きて待ってなくていいの。 」
「 はあ〜い 」
「 ほら すばる、お返事は? 」
「 はあい 」
「 よろしい。 それじゃ ・・・電気消すわよ おやすみなさい。 」
「「 おやすみなさい〜〜〜 」」
カチン ・・・と音がして子供部屋は真っ暗になった。
トン トン トン ・・・ お母さんの足音が遠ざかってゆく。
「 ― すばる? おきてる? 」
「 ・・・ おきてる。 」
ひそひそ声が 真っ暗な部屋の中で響く。
「 どうする〜 ・・・ おかあさんのおたんじょうび ・・・ 」
「 ・・・ どうしよ〜 ・・・ 」
二人はまたまた黙り込んでしまった。 眠っちゃったのではない。 じ〜っと考えているのだ。
だって ―
「 おとうさん! おかえりなさ〜〜い 」
すぴかとすばるはパジャマのまま 玄関に駆け込んだ。
「 お?? あ〜〜 すぴか〜 すばる〜〜 ただいま〜〜♪ おっとォ〜〜 」
ぴょん! と飛びついてきた子供たちを お父さんは上手に受け止めてくれた。
「 ! まあ! あなた達〜〜 まだ起きていたの? 」
お母さんはお父さんの首に腕を絡めていたが 慌てて離れた。
「 うわ〜〜お ・・・ 二人とも 重くなったなあ〜〜 お父さん、もう持ち上げられないかも・・・
うんしょ うんしょ ・・・・ 」
そんなコト、言いつつ お父さんはにこにこ・・・軽々二人を抱き上げる。
「 もう・・・・ ねえ ジョー。 わたし、夜食を温めておくから ・・・
子供たちを部屋につれていってくれる? 」
「 おっけ♪ こら〜〜 お前たち〜〜 早く寝ないと明日起きれないぞ〜〜 」
「 へいき〜〜♪ 」
「 ぼ 僕 も・・・! 」
「 そうかあ〜〜? よいしょ よいしょ ・・・コノ荷物は重いなあ〜〜 」
ふふふ へへへ ははは ・・・ 三人は笑いっぱなしで子供部屋に戻った。
「 さあ ・・・ ちゃんとお蒲団、掛けたかい? 」
「「 うん !! 」」
「 じゃあな〜 おやすみ ・・・ うん? なんだい すぴか。 」
つんつん ― すぴかがお父さんのセーターの裾を引っ張っている。
「 ねえねえ ・・・ おとうさん。 」
「 うん? なんだい。 」
「 あのね。 アタシ達〜〜〜 おとうさんいききたいことがあるの。 」
うんうん ・・・ とすばるもお蒲団の下で大きく頷いている。
「 だから なにかな〜〜 ? 」
「 あの ね ― ・・・ おかあさんのおたんじょうび ― 」
二人はものすご〜〜く真剣に聞いたのだけれど。
「 あ? ・・・ そうだったなあ。 うん ・・・ おかあさんの誕生日 か。
あ! お前たち〜〜 もうひとつ! 25日はおじいちゃまのお誕生日だよ? 」
「 あ〜〜 おじいちゃま〜〜 」
「 おじいちゃま〜〜 」
「 うん。 おじいちゃまのお祝いも考えておいておくれ。 」
「「 は〜い 」」
「 それじゃ・・・ もうねんねしなくちゃ。 起きててくれてありがとう〜〜 」
お父さんはきゅう〜〜っと双子をだきしめてくれた。
「 え えへへへへ・・・・ 」
「 うふふふふ 〜〜〜 ♪」
すぴかもすばるもご機嫌ちゃんだ。
「 ねえねえ おとうさん、 それで 」
すぴかはおとうさんにもういっかいひっついて ― これはぜったいにきかなくちゃ! と思った。
「 うん? なんだい、 すぴか。 」
「 あのね〜 それでね〜 おとうさんはさ、おかあさんになにをぷれぜんとするの? 」
「 え? おかあさんに? 」
「 うん! だっておたんじょうびでしょう。 」
「 あ〜 そうだねえ。 うん ・・・ 実はねえ 」
お父さんはくす・・・っと一人で笑って すぴかのほうに屈んでくれた。 そして ―
「 二人とも? ちゃんとお蒲団に入っていますか〜〜 」
お母さんの声が聞こえて ・・・ ドアの隙間からすっと金色のアタマがみえた。
「「 は〜い!! もうねましたっ 」」
ふたごは大慌てでベッドに飛び込みお蒲団の中にもぐりこんだ。
「 おやすみなさい! 」
・・・ あ。 お父さんのぷれぜんと ・・・ きけなかった・・・
どうしよう〜〜 なにがいいのかな でも どうやって???
― バサ・・・!
すぴかは真っ暗な中、 起き上がった。
「 ね。 すばる! 」
「 ・・・ なに。 」
「 すばる! アタシたちで おいわい、やる! 」
「 おかあさんのおたんじょいびの ? 」
「 そ! おじいちゃまのも。 」
「 いいけど〜 ・・・ ぷれぜんと どうするのさ。 」
「 ・・・ う ・・・・ ん ・・・? 」
何かを買うにはお金が必要・・・ってことはちゃんと知ってる。
でも お金は大人がもっていて・・・ すぴか達はまだもっていない。
「 すばる! おかあさんのすきなものは?? 」
「 う〜〜ん ・・・・ あ! おはな〜〜 」
「 ぴんぽん♪ おかあさんのすきなたべものは? 」
「 ・・・ う〜〜ん ???? あ! くだもの! と
「 ぴんぽん♪ じゃあ おじいちゃまのすきなモノは? 」
「 ・・・ むずかしいごほん。 」
「 うん。 じゃあ おじいちゃまがだいじにしているものは? 」
「 ぼんさい。 僕 ちゃ〜んとおみず、あげてたもん。 」
「 き〜まり。 おかあさんにはおはなとくだもの。 おじいちゃまにはあたらしいぼんさい。 」
「 わ〜 すごい〜〜 ・・・ あ でも どうやってあつめるのさ?
おかね ないからかえないよ? 」
「 しってる〜〜 だからね アタシたち自分であつめて ・・・ ぷれぜんとにする。 」
「 だから〜 どうやって〜 」
「 すばる、アンタさ、 くだものをあつめてきて。 アタシ おはな。 あつめる。」
「 あ〜〜〜 すぴか ズルイ〜〜 すぴかの方がカンタンじゃん。 」
いつも姉の発言には 唯々諾々な彼なのだが ― 今晩すこし様子がちがいっていた。
「 カンタンじゃないよ。 アタシ、・・・ がけっぷちのくぼち、いってくる! 」
「 え〜〜〜 だいじょうぶ〜〜〜 」
「 すばる! お父さんお母さんには ナイショだからね! 」
「 う うん ・・・ 」
すぴかはものすごく真剣な顔で言うので すばるはこくこく頷くしかできなかった。
「 ぼ 僕 ・・・ うらやま、いって ・・・ あ くり! くり、さがすね。 」
「 うん。 いつかおとうさんとひろいにいったよね。 い〜っぱいひろったよね。 」
「 うん。 それでさ、 くりごはん にしたよね〜〜 僕 くりにする! 」
「 おっけ〜〜 おじいちゃまには ・・・ なんかちっちゃな木、にしない? 」
「 うん! ぼんさい みたいにちっちゃな木、にする! 」
「 おっけ〜〜〜 ああ よ〜かった♪ ・・・ふぁ〜〜・・・ じゃ オヤスミ〜〜 」
すぴかは ころん、と横になると 本当にたちまち寝息を立て始めた。
「 ・・・ あ〜 ・・・ もう 〜 すぴかったらすぐにねちゃうんだからあ〜〜〜 」
ゴソゴソ ― しばらくお蒲団の中であっちこっち向いていたけれど、セピアのクセッ毛アタマも
やがて枕にふんわりと沈んだ。
― ことん。 目の前に置かれた湯呑茶碗から 香ばしい湯気が立ち昇る。
ジョーはソファで新聞を広げていたが すぐに顔をあげた。
「 ・・・ あ これ ・・? 」
「 ええ、 玄米茶。 ジョー、好きでしょ。 」
「 うん♪ うわ〜〜 うれしいなあ・・・ うん いい香りだよ・・・ 」
ジョーは茶碗を両手で囲み しばし香りを楽しんでからゆっくりと口に含む。
「 ふふふ ・・・ わたしも好き。 ちょっとコーヒーみたいだけど・・・ マイルドでいいわよね。 」
「 ・・・ う〜〜ん ・・・・ ウマイ。 食事の後には最高だよ・・・ 」
「 よかった・・・ 毎晩、こんなに遅くて ・・・大丈夫? 」
「 へ〜き へ〜き 好きな仕事だしね。 ・・・ きみやチビたちと一緒にいられないのがツラいけど・・・ 」
「 ・・・ わたしも・・・ ああ でもあの子たち〜〜 なんでこんな時間まで起きていたのかしら。」
「 あ・・・ うん ・・・ まあ たまには・・・大目にみてやろうよ。
ぼく、 あいつらを抱っこしたのなんて 本当久し振りだもの。 」
「 そうねえ ・・・ おとうさんは? 何時に帰ってくるの? って・・・
今日はず〜〜っとそんなこと、聞いてたのよ。 ええ 二人とも・・・ 」
「 ふうん ・・・ でもな〜〜ずん・・!と重くなったなあ ・・・ もう片手で二人、は無理っぽい。 」
「 ふふふ ・・・ 天下の009が何をおっしゃいますか〜〜 」
「 あはは ・・・ もう オジサンです。 」
ジョーは隣に座る愛しい存在を くぃ、と引き寄せた。
「 きゃ・・・ わたしも二児のハハのオバサンです。 」
「 お〜 そりゃ 残念〜〜 オジサンとしては お若いお嬢さんを誘惑したかったのですが。 」
「 あら。 オバサンとしても 若いボウヤを落としてみたかったのですが。 」
「 ― このオバサンも魅惑的ですね〜〜 」
「 オジサンの魅力を理解するのは ・・・ 小娘には無理です。 」
するり、と白い手がジョーの首に絡み付いて。
「 わたし。 夜更かしして・・・ お腹が空いてしまったの。 ・・・ 食べてもいい? 」
ちゅ。 軽いキスがジョーの唇を掠めた。
「 ふふふ ・・・ ぼくも 夜食のデザートを頂きたいと思います。 」
するり、と彼の長い指が襟元から忍び込む。
「 ・・・ デザート ですか? わたしとしては メインディッシュなんですけど? 」
白い指が彼の頬から首へ そして耳に後ろへと漣みたいな愛撫を繰り返してゆく。
「 ・・・ く ぅ ・・・ 」
「 ・・・ 耳の後ろ 相変わらずね ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ じゃあ ぼくも♪ 」
胸元を弄る指がゆっくりと頂点を探りあてる。
「 ・・・ ! ・・・ も ・・・う 〜〜 いじわる ・・・ 」
「 はい、オジサンはイジワルなんですよ〜〜 シツレイしま〜す♪ 」
「 ・・・ だめ こんな所で ・・・ 子供達が 」
「 もうぐっすり、だよ。 ― ああ いつもキレイだねえ ・・・ 」
「 あ ・・・ やだ そこ ・・・・ あ あ 」
「 ふふふ きみって本当に色白だからさあ〜 こう・・・すぐにぱあ〜〜っとピンク色に
染まってさ ・・・ キレイだなあ・・・ 」
「 ・・・ もう〜〜 イヤな ジョー ・・・ くちゅ♪ 」
「 ・・・ う わ・・・! ・・・ きみって ・・・ あ〜〜もうクラクラしてきた・・・ 」
ジョーはそのまま彼の細君をソファに押し倒した。
「 ― それでは シツレイいたします 」
「 ・・・ こんなところで ・・・ 」
「 おや。 それじゃ中止いたしましょうか? 続きは 〜 」
「 ― だめ。 ・・・イジワル。 」
「 それじゃ ・・・ リクエストにお応えして〜〜〜 ふんふん♪ 」
「 ・・・ お口を閉じて? ちゅ♪ 」
「 ・・・・・・ 」
リビングのソファで ― 恋人たちの熱い夜は更けていった。
「 へい、毎度あり〜〜 すぴかちゃん、 すばるくん 気をつけてな〜〜 」
「 は〜〜い♪ にくのなにわやのオジサン、ありがと〜〜 」
「 ありがと〜〜 」
「 はいよ。 オレがずっと見ててやるから・・・ 道の端っこを歩くんだぞ。 」
「 うん! がっこうにゆくときとおんなじだも〜ん♪ 」
「 も〜ん♪ 」
今日は 肉屋さんに <お使い> にきた双子は、 今日もリュックにベーコンと餃子の皮を
入れてもらって仲良く帰っていった。
< 肉のナニワ屋 > の大将は二人が大きな道から 私道の方に曲がるまで見送ってくれた。
「 ・・・ いいねえ・・・ あの美人に母さんはしっかりシツケてるんだなあ〜〜 」
「 お。 今日はそっちかい、ナニワ屋さんよ。 」
「 ん〜? 八百正さんかい。 ああ 今晩は餃子なんだと。 」
「 ふうん ・・・ あのチビ達もこの町にず〜っと住んでくれるといいんだがなあ 」
「 そうだなあ。 あ 来月の節分! 豆まきのオニ、頼むよ〜 」
「 オッケ オッケ〜〜 あのチビ達もくるだろ? 」
「 ともだち つれてくる〜〜って 坊主が言ってたよ。 」
「 よし よし 〜〜 」
商店街のオジサン達は 暢気な会話を交わしていた。
そのころ ・・・
「 じゃ アタシ。 こっち ね。 」
「 うん。 僕 ・・・ くり。 あと ちっこい木 」
「 うん。 < ゆうやけ・こやけ > がなるときにしゅうごう! 」
「 うん。 りゅっくは? 」
「 う〜〜ん ・・・ あ! この木の枝にかくしとこ。 」
「 うん。 ・・・ えい! これでいいよね〜 」
「 うん。 じゃ〜ね〜 すばる〜 」
「 じゃ〜ね〜 すぴか。 」
色違いのアタマは 別々の方向に離れていった。 どちらもオウチのご門の方じゃ ない。
双子たちがいなくなった後には 小さなリュックが木の枝にぶら下がっていた。
「 へい いらっしゃい〜 あ こちら 480円ですね〜 はい どうも。 」
「 ひき肉? あいびきにしますか? ・・・ はいはい 300グラムね はい 」
商店街の夕方は どこの店先も賑やかで忙しい。
人口はそんなに多くなくても お客さん達は皆いろいろ・・・おしゃべりをしてゆくので
八百屋さんもお魚屋さんも肉屋さんも 大忙しなのだ。
― そんな中に ・・・
「 ・・・ あの〜 ・・・ すみませんが・・・ 」
「 はいはい いらっしゃい〜 ちょいとお待ちを・・・・ 」
「 はい お忙しいところ、ごめんなさい。 」
「 ? あれ〜〜 すぴかちゃんとすばるクンのお母さん? さっきはど〜も。 」
肉のナニ屋さんは 駆け込んできた金髪美人を愛想よく迎えた。
「 あの・・・ 」
「 ああ なにか買い忘れですかい? 」
「 いえ ・・・ あの、あのコ達 ・・・ もう帰りましたか? 」
「 へ? ええ ええ。 二人でしっかり手ェ繋いでね。 道路も端っこ歩いて・・・
お宅の方への道を曲がるまで オレがちゃ〜〜んと見てたよ〜 」
「 ありがとうございます、 あの〜〜 何時頃か ・・・ 覚えていらっしゃいます? 」
「 え・・・さあ〜〜 ・・・・ あ! < 夕焼け・小焼け > が流れる前だったから・・・
5時よりもかなり前だったかなあ〜〜 ? 」
「 あ ・・・ そうですか。 すみません、どうもありがとうございました。 」
美人な<お母さん> は 強張った顔に、でもちょこっと笑みを浮かべてお辞儀をした。
彼女はいつもはもっとにこにこしている人なので肉屋のオジサンは あれ・・・と思った。
「 どうかしましたかい? 」
「 ええ ・・・ あの。 まだ 帰ってこないんです、 二人とも。 」
「 なんだってェ〜〜〜??? 」
結局 商店街のお店の人達皆に聞いてみたけれど 双子は5時よりも前に家に向かった、
ということしかわからなかった。
「 奥さん! 交番に届けたほうがいいよ! 」
「 そうですよ〜〜 あ! なんならアタシが一っ走り〜〜 」
「 それよりも110番したほうが〜〜 」
「 そうだよ、 そうだよ〜〜 あんなに可愛いんだもの、危ないよ〜 」
顔見知りの誰もがわいわいと 心配してくれた。
「 あ ・・・ ありがとうございます。 もうちょっとウチの方を探してみますから・・・
すみません、本当にお騒がせしました。 」
島村さんちの奥さんは 深々〜〜〜アタマを下げて 崖っぷちの我が家の方に戻っていった。
「 ・・・ 大丈夫かねえ・・・ 心配だなあ・・・ 」
「 ウン。 しっかりものっても あの若さだから・・・ 」
「 お前、 やっぱ交番に ・・・ 」
「 でも・・・ お母さんが いい って ・・・ 」
「 う〜ん ・・・ じゃ ・・・ もうちょっと様子みるか・・・ 」
皆は 彼女の後ろ姿を心配顔で見送った。
― 当の 島村さんちの奥さん は ・・・
「 ・・・ ったく〜〜〜〜〜!!! どこで道草喰ってるっていうの〜〜〜〜 」
ぽっぽと湯気がたつほど 怒っていた。
海は全部 < 見た > わ。 ― 事故 なし。
国道の方も可視範囲全部 < 見た > わ。 ― 事故 なし。
・・・ ってことは。 どこかに紛れ込んでいるってこと ・・!
がしがしがし。 いつもにも増して大股で急坂を登っていて ― 見つけてしまった。
「 ん? あ〜〜〜!! これ! あの子たちのリュック! 」
フランソワーズは 低木の裏側に隠すみたくひっかけてあったちっちゃなリュックを取り上げた。
「 ― やっぱり。 荷物を置いてどこに行っちゃったの! ようし ・・・! 」
003はその超視聴覚を最高レベルまでに拡張し ― 宣言した。
さあ〜〜〜 どこにいるの!? 見逃さないわよっ!
Last
updated : 01,29,2013.
index / next
********* 途中ですが ・・・
え〜〜〜・・・・ 一応 フランちゃんの はぴば♪話 のはず・・・なのですが・・・
まあ ・・・ 怒れる母はおっかない・・・ということで はい。
冒頭に出てくる水仙は所謂 和水仙、日本古来からの花の小さなものです。